第8回口頭弁論を傍聴して
9月22日10時からの第8回口頭弁論を傍聴してきました。
今回が最後の口頭弁論で、次回は証人尋問だと聞いていたのですが、被告側からは本日〆切であるはずの人証申請も陳述書も提出されず、もう一度弁論期日を入れてほしいと希望してきました。
原告側弁護士が立ち上がって抗議し、「人証申請が期日までにないということは証人の希望なしと見做すべきではないか、裁判をいたずらに引き延ばさないでほしい」と反論しましたが、裁判官が被告の尋問が必要だと考えているとのことで、結局10月にもう一度口頭弁論が入ることになりました。
本来であれば、原告と被告が一斉に陳述書を提出するはずだったのが、被告が提出しなかったことによって、原告側の最終の陳述書を見てから被告側の陳述書が提出されるということになります。それでは不公平が生じるのではないか?という感想を持ちました。
証人尋問にあたっては、性暴力という事件の性格上、被告と原告の間に遮蔽物を入れてAさんが被告の顔を見ないですむようにする配慮を求めていますが、驚いたことに、被告側からも傍聴席との間に衝立を立ててほしいという要望が出てきたそうです。理由は、傍聴席から見られることによって被告が緊張するからだとのこと。
被告の遮蔽の前例は聞いたことがなく、裁判の公開性という観点から考えても、被告の希望が通るとは考え難いが、裁判官が遮蔽のイメージを双方に提出するように要請してきたので、検討するつもりなのかもしれない、と弁護士も首を捻っていました。
傍聴者は19名でした。
証人尋問は、11月に行われます。
この裁判の大きな山場となり、広めの法廷を確保してもらっておりますので、一人でも多くの傍聴をお待ちしております。
証人尋問の場で性暴力の加害者と対峙しなくてはいけないAさんの不安を思うと胸が痛みますが、傍聴席をたくさんの支援者で埋め尽くして、Aさんを支えましょう!
勇気をもって声を上げたAさんをご支援くださいますよう、よろしくお願いいたします。
Kみすず(支援する会世話人)
心強い応援メッセージをいただきました
「Aさんの裁判を支援する会」の会員の方から、
心強い応援メッセージをいただきました。
ありがとうございます。
●Aさんの裁判の話を初めて聞いたとき、なぜ、私たち女は、繰り返し繰り返し、痛めつけられなければならないのか、と胸が苦しくなりました。
でも、そんな弱音を吐く暇はない。
絶対に許さない!
Aさんの尊厳、私たち女の尊厳を守りぬく闘いとして、ともに闘っていこうと思う。
豊 楊子さん(桐原ユニオン)
●Aさんの裁判は争う価値があるものだが、当該の気持ちになればなんと残酷な事件かと思わずにはいられない。
このような事件は二度と起きてほしくない。
しかし起きてしまったからには、法廷の場を土俵にして勝たないわけにはいかない。
当該に寄り添う心こそ、何よりもこの裁判には必要なのではないか。
私が所属する日本音楽家ユニオンでは、新国立劇場での合唱団員の不当解雇事件が記憶に新しい。
この争議は音楽ユニオンが原告になった。
しかし当該は女性一人だ。
精神的なつらさは計り知れないものがあっただろう。
その後も音楽大学の女性講師の不当解雇事件があり、関西の短期大学では使用者が無期雇用転換を阻もうとする事件があった。
こちらも一人の女性が被害者だ。
女性が弱いとか男性の方が強いとか言っているのは時代錯誤かもしれない。
しかし性差による不利益だけでなく、有期雇用契約や業務委託契約など契約自由の原則が残した負の遺産と対峙して戦うことは、我々プロレタリアートの宿命なのだろう。
互いに愛し合おうではないか。それがもたらすプラスの遺産は平和に他ならない。
高橋正樹さん(日本音楽家ユニオン)
引き続き、支援の輪を広げていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
第7回口頭弁論を傍聴して
7月14日、フリーライターAさんの第7回口頭弁論が開かれ、24名の方が傍聴に来てくれました。
実は、法廷に入るのは初めてです。女性裁判長、女性陪席裁判官(もう一人は男性)、そして女性司法研修生と、しかも若い方々なので、思わず「韓国ドラマ『リーガル・ハイ』みたい」と感心してしまいました。
裁判長から、原告側・被告側双方に反論主張はほぼつきていることの確認が行われ、次回もう一度弁論を入れ、次々回(10月か11月)には証人尋問へと進むことになりました。裁判長は証人についても質問。こちら側は、原告本人と、最初からAさんに寄りそってきた出版ネッツ組合員を予定、被告側は、被告本人と、Aさんと面識のある女性も検討中と答えました。
そして、誰を尋問するかという証人申請と、証人の陳述書を、9月15日までに準備することになりました。
今回も、支援者は法廷には入りきらず、多勢が待機しました。次々回の証人尋問のときには、30人入れるほどの広い法廷を用意してほしいと要請しました。
なお、被告が組合を敵視するようなブログを、この間ずっと書いていましたが、7月13日、突然すべて削除されたとの報告が、裁判終了後にありました。見るに耐えないものが消え去って、少しホッとしました。
証人尋問のときには被告も出廷しますから、Aさんは不安なことと思います。遮蔽板を置くなどの配慮はしてもらえるそうですが、Aさんを励ますためにも、皆さん、傍聴に来てくださるようお願いいたします。
若藤えい子(支援する会世話人)
事件の概要はこちら
オンライン勉強会 変えたい!セクハラ・パワハラを生み出すわたしたちの社会
2021年6月16日、フリーライターAさんの裁判を支援する会と出版労連・出版ネッツの主催のオンライン勉強会「セクハラ・パワハラ裁判と被害者心理」が開かれました。Aさんの裁判の弁護士のお2人と、ライター、ハラスメント実態調査に取り組んだ団体メンバー、支援者が話をされ、130名が視聴しました。報告と感想を記します。
はじめに裁判の担当弁護士・長谷川悠美さんから裁判の概要、ついで弁護士の青龍美和子さんからセクハラ・パワハラ事件についての話がありました。地位・関係性を利用した性暴力発生のプロセスと、抵抗できない被害者心理の背景、ジェンダーギャップ指数が世界153か国中120位(2021年)という男尊女卑社会の日本で、そうした被害者心理が理解されにくい事情について説明されました。その後、フリーライターの小川たまかさんから「地位関係性の中で起こる性暴力」について、表現の現場調査団の田村かのこさんと木村奈緒さんからはハラスメント実態調査の概要(*)と事例紹介、そしてPraise the braveの八幡真弓さんから、「支援者から当事者となり見えてきたこと」という話題提供がありました。
表現の現場調査団の実態調査ではAさんの裁判に関連する事例が紹介され、アートや演劇、映画、音楽、文芸、アニメやゲームの業界ではフリーランスとして働く人が多く、法的保護が弱いために被害が放置されている現状が浮かび上がりました。八幡さんのお話からは、パワハラ・セクハラ被害後の回復の過程とは浮き沈みの大きい、一直線に進むようなものではないことが伝わってきました。そして、支援者側が陥りがちな思い込みや、当事者のどのような選択も尊重することの重要性を指摘されました。
今回、改めて感じたことは、わたしたちの社会に性暴力容認文化ともいうべきものが蔓延しているということです。被害を受けた側が立証しなければならない司法のあり方、仕事を得るには多少の「〜ハラ」は乗り越えて当然という「常識」、自分に落ち度があるのではと思ってしまう自責の念……。変えたいことばかりです。先日も立憲民主党の刑法改正ワーキングチームの会合で「50歳近くの私と14歳が同意の性交をして捕まるのはおかしい」というトンデモ発言をした政治家が批判を受け撤回・謝罪するという出来事がありましたが、“年齢差や立場を超えた純愛”というファンタジーが誰の側からのものであるかをよくよく考えてみる必要があると感じました。対等な関係や同意についても学びたいです。
勉強会の最後は、原告Aさんのあいさつでした。Aさんは、被害を受けた当初の心境、出版ネッツに相談・加入し、支援者や弁護士との関わりの中で意識が変わったこと、社会への怒りや失望、新しい仕事で出会う方たちの姿に触れて生じた前向きな思いを率直に話されました。Aさんの勇気と真摯さに打たれる一方で、年長者が支援するかたちにならざるを得ないなかで、Aさんに負荷がかかりすぎていないか気になります。つねに聴く耳をもち、疲れたら休んでいいことを確認し合いながらゆっくり進んでいきましょう。
(山家直子 出版ネッツ)
(*)表現の現場ハラスメント白書2021について
第6回口頭弁論を傍聴して
5月19日、フリーライターAさんの第6回口頭弁論が開かれ、23名の方が傍聴に駆けつけてくれた。今回は原告側が準備書面4と書証を提出。準備書面は前回提出の積み残しで、症状の経過や、被告によるセクハラ・パワハラ行為と症状との因果関係についてである。
性暴力被害者の症状の表れ方はまちまちであり、被害に遭ったあとは「部屋に閉じこもり、仕事などできないはず」などと思い込むのは危険であること、記者会見に出席するなどの行動についても、「支援を受けることによって、被害者が被害を自覚し、受け入れていくプロセスが始まる」のであり、原告の症状や行動は性暴力被害者のたどるプロセスと一致すると述べた。また、被告は主張が場当たり的で、不合理に変わっていること、その場しのぎにすぎず信用性がないこと、それは訴訟の場においても同様であることなどを主張した。
前回、裁判官3名のうち1名が女性になったが、今回さらに裁判長が女性に変わり2名が女性となった。4月は異動があるとのことだが、この裁判の特性を考慮したものとも考えられる。ぜひ、女性の視点からの判断をしていただきたい。
次回は被告の反論の弁論となる。Aさんは、福祉関係のアルバイトを始めたことを報告するとともに、「準備書面を読んで、気持ちが晴れました。被告がどのような反論ができるのか、してくるのかと思います」とあいさつをされた。皆さんもぜひ裁判傍聴支援をお願いいたします。また、「フリーライターAさんの裁判を支援する会」への加入をお願いいたします。
(鈴木俊勝/支援する会世話人)
オンライン勉強会「セクハラ・パワハラ裁判と被害者心理」を開催します
フリーライターAさんの裁判では、性的被害を受けた後も“何事もなかったかのように”仕事を続けたことが争点の一つになっています。
被害を “なかったことにしよう”と考えたり“ (加害者の)機嫌を損ねないように ”対応したりすることはよくあることと言われます。
こうした被害者心理について、さらにフリーランスへのセクハラ・パワハラの実態について学ぶことで、本裁判への理解を深めていただければと思います。
- 日 時:2021年6月16日(水)18時30分~20時
- 開催方法:ウェビナー(Zoom)
- 申込み方法:「こくちーずプロ」で、6月15日(火)までに参加申し込みをお願いします。https://www.kokuchpro.com/event/882b727285707f39f69732a2aae4b8d9/
申し込まれた方には、ウェビナーへの参加に必要な情報を送ります。
- 参加費:無料
- 主催:フリーライターAさんの裁判を支援する会、出版労連、出版ネッツ
- 問合せ先:a-shien@syuppan.net(フリーライターAさんの裁判を支援する会)
TEL:03-3816-2911(出版労連)
《プログラム》
◆講演:セクハラ・パワハラ裁判と被害者心理
青龍美和子弁護士、長谷川悠美弁護士(東京法律事務所)
◆話題提供
①性暴力に関する刑法改正の動きについて
小川たまかさん(ライター):主に性暴力を取材。著書に『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)。
②なぜ声をあげづらいのか――「表現の現場ハラスメント白書2021」より
田村かのこさん(アートトランスレーター):アート専門の翻訳・通訳者の活動団体「Art Translators Collective」代表。表現の現場調査団メンバー。
木村奈緒さん(フリーランス):ライター業を中心に、取材執筆ほか各種プロジェクトの企画・運営などを行う。表現の現場調査団メンバー。
③支援者から当事者となり見えてきたこと
八幡真弓さん(Praise the brave代表):10代から女性支援に関わるが、自身もレイプ被害にあい当事者に。支援者・当事者の両方の視点からDV・性暴力を捉える。
(事務局)
↓当日のレポートです。ぜひご覧ください。
『その名を暴け』にみるメディア戦略の戦慄
すでに、このブログで3回にわたって言及されているノンフィクション『その名を暴け』(新潮社)。アメリカ「ニューヨーク・タイムス」の記者ジョディとミーガンが、ハリウッドの大物プロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタインによる性暴力の事実を綿密な調査報道により明らかにするまでとその後を描いたものだ。みっちりと文字が詰まった400ページを超える本書を、わたしも息をつめて読み、被害者の勇気とふたりのジャーナリストの報道への使命感に胸打たれたのだが、別の意味でひどく驚愕した箇所があった。
それは、長年にわたる性暴力を「なかったこと」にしたいと目論むワインスタインが雇った弁護士が、ワインスタインに示した戦略のリストだ。ここでターゲットになっているのは、性被害をツイッターで告発した女優ローズ・マッゴーワン。弁護士が、雇い主であるワインスタインに提案したのは次のようなことだ。
(1)マッゴーワンに友好的な接触を試みて、つながりができたら「ウィン・ウィン」の関係を築く。彼女がなにを求めているか(たとえば、映画の監督をするなど?)が重要。
(2)ネット上で反撃をおこない、マッゴーワンが病的な嘘つきだと主張する。人々がグーグルで検索するときに最初にヒットするその記事により、彼女の信用はがた落ちになる。
(3)弁護士から、攻撃を止めろという停止通告書を出し、ワインスタインとの契約違反だと警告する。ただし、その通告書がネット上にアップされると、炎上し反発を買うリスクがある。
(4)機先を制して公の取材を受ける。そこで、根拠のないひどい噂に心を痛めている、彼女とのことは合意に基づいた行為だったと強調しつつも、傷つけた人に対して深い悔恨の意を表明する。最初に自ら罪を認めることで世間から高評価が得られる。
(5)ワインスタイン基金を創設し、映画界の男女平等に力を入れる。あるいは、ワインスタイン基準を創設し、全映画の3分の1は女性の監督と脚本家に任せ、自分の支配下にあるすべての映画に、具体的なやり方で男女平等に関する基準を設けると公表する。
(6)好意的な評判を手に入れるために、懇意のSEO〔検索エンジン最適化〕対策会社に依頼する。その手法は、好意的な記事を「ファイアウォール」にするようにバックリンク〔ほかのサイトからリンクされること。リンクされた量と質が検索順位に影響する〕すること。これで否定的な記事はグーグルのランキングに出てこなくなる。グーグルの最初のページを見た人の95%は、次のページへは行かない。
インターネットの画期性には疑いがないが、発信された情報の信憑性をみきわめることは容易ではない。わたしが見ている情報の大半はわたしが好ましいと感じた枠組みで選別されたものだし、ランキングで上位に上がる情報も、お金の力でその位置を得ているかもしれない。わたしたちの気まぐれな好奇心や怒りや、ある種の“正義感”がどのように作用し、操作されうるものなのか、なんともやっかいなものであることを思い知らされる。
このリストを作った弁護士リサ・ブルームが、フェミニストとして名高い弁護士の娘で、過去には大統領候補だったトランプへの告発者の代理人を務めたこともあるというのは実に皮肉であり、訴訟社会アメリカを思わせる。本書には、ワインスタインが彼女に手付金として5万ドル振り込んだことや、秘密探偵を使って情報を集めたり、関係者に接触していたりしたことなども明らかにしている。ワインスタインの会社ぐるみの不正揉み消しを粘り強く調査し、報道に漕ぎ着ける記者たちの使命感と力量に感服してしまう。
調査報道の力量は望むべくもないわたしたちだけれど、発信する情報については複数の目で内容や表現を吟味し、誤りのないものになるよう今後も努めていこう。またAさんの裁判の行方が、同時にこの社会全体の性暴力をなくすことに通じていると信じて関わっていきたい。
(山家直子 出版ネッツ)
『その名を暴け
──#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』
原題『SHE SAID』
ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー 著
古屋美登里 訳
新潮社
「『表現の現場』ハラスメント白書2021」が公表されました
2021年3月24日、「『表現の現場』ハラスメント白書2021」が公表されました(*1)。
調査を行ったのは、アーティストや作家の有志により発足した「表現の現場調査団」(*2)。
写真、映像、芸術、文芸、報道、演劇、漫画、研究、デザイン、ゲーム、ダンス、古典芸能など、さまざまな「表現の現場」が自由で平等な場となるよう、調査と社会改善に取り組む団体です。
調査対象は、表現にかかわる活動・仕事をしている、学生等を含む人たちで、1,449人が回答しています。
このうち「(何らかの)ハラスメントを受けた経験がある」は1,195名にのぼり、「セクハラ経験がある」1,161名、「パワハラ経験がある」1,298名でした。
また、自由筆記の抜粋には、生々しいハラスメント事例が多数紹介されています。
この「白書」の特長は、集まった事例をもとに、さまざまな角度から分析を行っていることです。
事例は、「分野ごとに見る」「被害類型ごとに見る」「状況ごとに見る」「立場や属性から見たハラスメント被害」などにカテゴライズされ、各項目をさらに細かく分類のうえ、それぞれの特徴が示されています。
たとえば「文芸・ジャーナリズム」分野では、「契約・雇用の不透明さ」「取材相手からのハラスメント」「同業者間のマウンティング及びハラスメント」「編集者によるハラスメント」などに分類され、事例と分析が記載されています。
日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)フリーランス連絡会など3団体が行った「フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態調査」(*3)との共通点がみられるのは、表現の現場に、フリーランスで働いている人が多いからだといえるでしょう。
「白書」でも、「フリーランスに対するハラスメントに関する法的保護が薄いことにより、多くの被害が対処困難なまま放置されてしまっている」こと、契約書を作成しないために不当な値切り、超過労働などが蔓延し、さらには人脈やつながりを重視する業界の悪習慣がさまざまなハラスメントの温床にもなっていると指摘しています。
「表現の現場調査団」は、今後5年間、表現の場におけるハラスメントやジェンダーバランスの実態把握調査、フリーランスの表現者をハラスメントから守るための法改正要求などを行っていくことを目標に掲げています。
同じ目標を持つ者・団体として、今後連携してとりくみを進めていきたいと考えています。
(杉村和美/出版ネッツ)
(*1)「表現の現場」ハラスメント白書2021
(*2)表現の現場調査団
※「相談窓口」のページには、ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)のリンクが張られています。
(*3)フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態調査
第5回口頭弁論を傍聴して〜被害者心理への理解を求めて準備書面提出
2021年3月24日、東京地裁708号法廷にて第5回口頭弁論が行われました。いつものように、原告側にはAさんと長谷川悠美・青龍美和子両弁護士、被告側は代理人の弁護士1人のみの出席です。傍聴席はAさんを支援する会のメンバーで満席。といっても座席1つおきのため、控室で待っていた人も含め集まったのは20人でした。
今回は、被告側から提出された準備書面への、原告側からの反論として準備書面3を提出したことの確認と、次回日程の調整です。今回原告側からは41ページにおよぶ準備書面3を提出しましたが、さらなる補充の準備書面を提出する予定であることから、ゴールデンウィーク後の第6回口頭弁論の日程を決める、短時間でのやりとりでした。
終了後、弁護士のお二人からの説明と質疑応答がありました。
被告の主張①契約していないから報酬は払う必要がない、②セクハラはしていない、の2点について、次の反論を提出したとのことです。
1.「契約書」という書面が交わされていなくてもメモやライン等の記録から契約は成立しており、原告の作成した記事をホームページに掲載していたことからも業務が遂行されていたことは明らか(現在は削除されているホームページ上のニュース記事キャプチャ等も証拠として提出)
2.セクシュアルハラスメントおよびパワーハラスメントの具体的な内容(時系列に沿って)
3.セクシュアルハラスメント被害を受けた人が、その後も加害者と仕事を続けたり、加害者に迎合的な態度を取ったりすることをもって「合意の上だった、セクハラはなかった」ということができないことの証拠として、さまざまな文献等から被害者心理の説明。また、セクハラが業務上の過剰な要求や、人格の攻撃などといったパワハラに発展しやすいこと、フリーランサーへの調査(*)などから不払いなど経済的いやがらせもパワハラの一環であることも合わせて説明。このような被害者心理を鑑みた裁判例も複数取り上げた。
青龍弁護士は、「セクハラやパワハラは密室での出来事で客観的な証拠がないことが多く、原告と被告の主張のどちらが合理的かで判断される。被告の準備書面やブログの記事が、いかに具体性・信頼性の乏しいものであるか、また加害者が地位や関係性を利用して被害者を信頼させ、手なづけ、経済的に依存させる状況に追い込んだうえで性的暴力をふるうか、精神医学的にも心理学的にも明らかになってきているので、文献等からの証拠を提出した」と説明。さらに、次回、原告の精神的なダメージをカルテも踏まえて提出予定とのことでした。
Aさんは、「被告は、記事の質が悪いから報酬は払えないと主張してきたが、私が性的な誘いを断ったことへの腹いせで言っていると、ずっと思ってきました。今回、準備書面で、セクハラとパワハラ・未払いが一体化していることについてまとめていただき、読んでいて胸がすく思いでした」と話されました。
支援する会の小日向芳子さんからは、「支援する会に、出版労連や出版ネッツに無縁と思われる人からのカンパが届き、裁判に関心が集まっていることを実感している」、また別の争議の原告の方から、「裁判が和解に至り、主張は全面的には通らなかったものの、過去に遡り支払いを受けられることになった」と報告がありました。声をあげ、ねばり強くたたかった人が報われてよかった、Aさんの裁判もそれに続くよう力を合わせねばと思った一コマでした。そして、裁判官の方々には双方の準備書面をしっかり読み込んで、公正かつ社会の進歩につながる判決を示していただきたいと思います。
山家直子(出版ネッツ)
(*)フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態調査
職場の常識を変えたい―セクハラ裁判第1号の支援者からAさんへ
この裁判を知ったとき、セクハラ事件が当たり前のように起き続けている現実に、怒りが湧いてきました。32年前もそう、怒りが行動につながるエネルギー源でした。
1989年8月5日、日本初と言われるセクハラ裁判が福岡で提訴されました。「セクシュアルハラスメント」という言葉も概念も知られていない頃です。結成された支援の会も「職場での性的いやがらせと闘う裁判を支援する会」と名付けられました。私はその事務局の一員でした。
当時、女性運動に携わっている人からでさえ「こんなことで裁判を起こすなんて、地道に積み上げてきた運動が10年後退する」と批判を受けました。しかし実際には、我慢して口には出さなかったけれど「苦しい出来事」「あの気持ち悪さ」を抱えている女性は多く、勇気をもって裁判を起こした原告を心から支援すると300人を超える声が全国から寄せられました。憲法で保障された「幸福追求権」「法の下の平等」「生存権」「労働権」など基本的人権を奪うものであるとの訴えが届き、加害上司だけでなく退職を強要した会社の責任も認めた勝訴判決を得ました。
この裁判記録を「職場の常識は変わる」と題した本にしてから30年。メンバーは、それぞれセクハラ・DV等の性暴力、労働差別などをテーマに活動を続けてきましたが、残念ながら職場の「常識」はあまり変わっていません。私たち世代の力不足で、申し訳なく思います。
セクハラの認知度は上がりましたが、モラルやマナーのように言われ、基本的人権の問題としての認識が希薄になってきたように感じます。人格を貶め、生きる気力を失わせ、生きる糧である仕事をも奪う、それがセクハラです。
原告のAさんには、心無い言葉や過度な期待が聞こえてくることもあり、気持ちが揺れ動く日もあるでしょう。けれども、Aさんの訴えは至極当然です。私はカンパ行動しかできませんが、原告のAさん、支援の会の皆さん、心から応援しております。
(福岡市在住 三好久美子)
(注)福岡セクシュアル・ハラスメント裁判とは
1989年8月に提訴された日本初のセクシュアル・ハラスメント裁判。セクハラという言葉もない時代、「職場での性的いやがらせと闘う裁判」として世間の注目を集めた。被害女性は職場の上司から執拗な性的中傷を受け、退職を強要され、取引先などにも同様の中傷をばらまかれた。2年半の会社でのいやがらせ、提訴までの1年3カ月、提訴から判決まで、計6年を費やし、92年4月に原告の全面勝訴となった。
(職場での性的いやがらせと闘う裁判を支援する会『職場の「常識」が変わる――福岡セクシュアル・ハラスメント裁判』インパクト出版会、1992年、より)
裁判中に同会が発行していたニュース「NO!セクシュアル・ハラスメント」1~19号はNPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)のミニコミ図書館にアップされている。