フリーライターAさんの裁判を支援する会

すべてのハラスメントにNO!性暴力と嫌がらせ、報酬不払いを許さない! 勇気をもって声をあげたAさんの裁判を支援する会です。出版ネッツのメンバーが運営しています。

立ち上がるのは、新たな被害を防ぐため ~『その名を暴け』にみる被害者心理(3)~

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『その名を暴け』に登場する被害女性たちは、ニューヨーク・タイムズの取材に、最初は一様に口が重い。秘密保持契約を結ばされていた場合もあれば、加害者を匿名告発したことで、スポンサーから契約を切られるなど傷を負っていた場合もあった。

「ハリウッドの絶対権力者」ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラが始まったのは、1990年頃。タイムズがその性暴力についてスクープするのが2017年10月。実に30年近く、女性たちは黙らされていたことになる。

タイムズの記者ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーは、その粘り強い取材により、女性たちにエールを送り続け、そのことが女性たちの口を開かせた。

記者が信頼できる人物だったから…というだけで、証言者たちはすんなり「事実の公表」にGOサインを出したわけではない。

第一報に載ったのは、女優アシュレイ・ジャッドと、ミラマックス(ワインスタインが運営する映画製作会社)の元従業員ローラ・マッデンの被害体験だったが、『その名を暴け』に綴られている、この2人の「公表前夜」の心境は、読んでいて本当に息がつまる…。とりわけ、ジャッドとちがい、映画界とは無縁の一般人になっていたマッデンにとっては、世界中で読まれているアメリカの有力紙に実名が載ることの恐怖感は大きかった。家族への影響も考えたという。しかし――その恐怖を捨てさせたのも、家族だったのだ。

ワインスタインとのことを10代の娘たちに打ち明けたときに、マッデンの娘たちが言ったのは「自分たちの友人の身に最近同じようなことが起きた」だった。加害者は酔っぱらった少年たちだったという。

 

ミラマックスでわたしの身に起きた出来事について、証言をしなければならないと思っています。……わたしには三人の娘がいます。そして娘たちには、どのような環境であれ、こうしたひどい扱いを“普通のこと”だと受け止めてはならないと教えたいのです。

 わたしは報道してもらえることを嬉しく思います。  ローラ・マッデン

 

これはマッデンが娘たちからの言葉を聞いたあと、タイムズの記者へ出したメールだ。こうして彼女は「公表」にGOを出した。

 

シスターフッド

タイムズの報道は、互いに「個」だった女性たちを結びつけた。

第一報が出たあと、ジャッドとマッデンの勇気に触発されるように、多くの女性たちから2人の記者のもとへ続々と連絡が寄せられた。その中にはミラマックスのロンドン支社従業員時代に被害にあったが、かたくなに取材を拒んでいたロウィーナ・チウ(前稿参照)もいた。

2018年5月。第一報から5か月後。

ワインスタインが起訴され、裁判が進む中、タイムズの記者たちは、チウも含めてこの取材に協力してくれた女性たち12人を一堂に集めて「集団インタビュー」を行った。『その名を暴け』の終章「集まり」にはその様子が収録されている。なごやかな座談会のような雰囲気で、同じ傷を受けた者たちが初めて対面し、お互いにエンパワメントしあう場となった。チウはこの「集まり」を経て、数か月後にタイムズにワインスタインからの被害について寄稿。アジア人に強いられている「『波風を立たせない』というような不文律」を破ってカミングアウトした。

 

「今夜ここに来て、みなさんの考えを聞けて本当によかった。特に、なにがみなさんの背中を押して、どうやって進み出たのかを聞くことができて」

ロウィーナ・チウ 

 

「わたしたちはいまも笑っている。足を一歩前に踏み出したからといってだれも死んでなんかいない。わたしたちは炎の中を歩いたけど、みんなその向こう側にたどり着いた」

ゼルダ・パーキンズ(元ミラマックス・ロンドン支社従業員。チウの先輩だった)

 

ほかの人に同じ思いをしてほしくない

Aさんが一昨年10月に初めて、出版ネッツに相談に来たときのことをよく覚えている。性被害について、涙をも交えて話してくれたAさんに「つらいのに、よく話してくれましたね」というようなことを言ったら、Aさんの答えは「私にしたことを…(加害者が)他の人にもするかもしれないから」だった。

誰も好き好んで裁判なんかしたくない。お金も時間もかかる。それでも立ち上がるのは、再スタートのためには、加害者からの謝罪と「もう二度とあんなことはしない」という言葉がほしいからだ。Aさんに起きたことは私たちの誰に起きても、おかしくはない。そしてAさんと同じく、「ほかの被害者が生まれてほしくない」という思いで、私たちもこの裁判にのぞんでいる。Aさんがつらいときは私たちは涙をわかちあいたいし、最終的には裁判の結果が笑顔をわかちあえるものだといいと願っている。

(木下友子)

 

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