フリーライターAさんの裁判を支援する会

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証人尋問傍聴記(第7回)遮蔽板を設置、姿を隠して証言〜誘導尋問に終始、Aさんの主張をすべて否定

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

〇遮蔽板を設置。姿を隠して証言
 20分の休憩を経て、16時5分再開、被告の本人尋問である。
 入廷するとすでに遮蔽板が設置され、その中に被告はいた。遮蔽板で囲われているため、傍聴席からも原告席にいるAさんからも被告の姿は見えない。
 被告は自分の姿をさらしたくないと、遮蔽板の設置を要求したという。弁護団は異議を出したが、「傍聴人がたくさんいると尋問に影響するから」という被告の要求が認められ、このような形での証言となった。
 長谷川弁護士によれば、事件の被害者が遮蔽板の設置を要求することはあっても、加害者がそうすることはないという。それだけでも異例なのだ。

 

〇誘導尋問に終始。Aさんの主張をすべて否定
 最初に経歴を確認する。被告はIT業界を経て、2013年にエステサロンをオープン。業界での国際的な資格も取得し、美容専門の大学院でも学んだ専門家であることをアピールした。
 本題に入る。代理人弁護士は、原告が主張する被害事実、被告の行為について述べ、「はい」「いいえ」で答えさせた。「あなたは原告に対して●●しましたか?」というふうに。当然、被告はAさんの主張をすべて否定した。
 これについては長谷川弁護士が「誘導尋問です!」と異議を出した。しかし、改めることはなくずっと続いた。ちなみに長谷川弁護士によれば、誘導尋問による証言は証拠価値は低いという。
 マスクをしているせいか、ぼそぼそした声で、ところどころ聞き取れないところがあった。
 ほとんどが「はい」か「いいえ」という答えであったが、いくつかは自分の言葉で反論した。「質の低い記事などとは言っていない。記事が予約につながらない、と言ったことがある」、1万円を渡した理由について「お金がないと何度も言っていたので、かわいそうに思い1万円渡した」など。
 最後に原告に対して言いたいことはないか質問されると「特にないです」と一言。陳述書の内容に間違いはないことを確認して、主尋問は終了した。ちなみに、被告の主張を裏付ける客観的な証拠は提出されていない。


 原告の主張をことごとく否定する割には、原告に対しても裁判所に対しても何も言わなかった。また、提訴による影響についても代理人は質問しなかった。
 では、Aさんの反対尋問での「被告の実名を出したのはあなたの提案か?」という質問に何の意味があったのか。その質問からすれば、「訴えられたうえ、記者会見で実名を出されたから、業務に支障をきたし、社会的地位も低下した」という抗議に聞こえたのだが、それなら主尋問で堂々と訴えればいいのに。

松本浩美(出版ネッツ

 

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証人尋問傍聴記(第6回)補充尋問〜被害者を責めるような質問も

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

●補充尋問〜被害者を責めるような質問も
 尋問も終盤、裁判官による補充尋問を残すだけとなった。最初に、左陪席(織田みのり裁判官)が事実について細かく尋ねる。すでに答えている内容について、さらに詳しい説明が求められるのだ。セクハラを受けた場所、客がいたか、ドアやカーテンは閉まっていたかなどなど、Aさんは記憶にある限り答えた。しかし、嫌な記憶を呼び起こして言葉にするのは相当に苦痛を伴う作業だ。再び沈黙し、涙声で証言する場面も見られた。
 右陪席(熊谷浩明裁判官)からは、被告の仕事を辞めた後、生活に困窮していたのに親に相談できなかった、言えなかったのはなぜかとの質問がなされた。

Aさん「親からは、フリーランスになることを反対されていました。こんなことになったと話すと、責められるのではないかと思い、話せませんでした」。
左陪席「でも、あなたは悪くないのですよね? そんなことは言わないのではないですか?」
Aさん「当時は、そう(責められると)思っていました」。

 聞いていて、怒りを覚えた。「親に話せないのは、あなたにやましいところがあるからだ」、「女性なのだから、生活が苦しければ家族に頼ればいい」、「フリーランスなんてリスクが高いのだから、最初から目指したあなたが悪い」。そのように言っているように感じたからだ。被害者を責めてどうするつもりなのだ。それに、Aさんが男性だったら、熊谷裁判官はこのような質問をしたのだろうか? 

 最後に平城恭子裁判長は、被告の仕事を受けるまでの職歴、得ていた収入額について質問した。業務委託の報酬15万円がAさんにとってどのくらいの意味を持つのか、具体的な数字と比較して確認しようとしたのだろう。

 

〇やめてから「思い出さないようにしてきた」
 補充尋問を聞いて、裁判官に業務委託の内容が理解されていないと感じた長谷川弁護士は、再び、契約締結前から何度も話が出ていたこと、具体的な数字までLINEで送られてきたことなどを再度丁寧に確認する。
 さらに、Aさんの「記憶があいまい」となっている部分について、なぜそのような状態になったのか、仕事を辞めて以後の精神状態について尋ねた。
 「被告から、かばん持ちになるかやめるか選べといわれ、自分のされたことがわかりました。それからは1か月間、(されたことを)思い出していました。しかし、1か月過ぎたら、思い出さなくなりました。忘れたいと思っていたし、思い出さないようにしていました」。
 ネッツに相談して説明したときは、「きちんと話せる精神状態かわからなかったので、(被害の詳細を)忘れないように紙に書いておいて、それをもとに相談しました」。

 

 15時45分、予定時刻を1時間以上オーバーして尋問は終了した。緊張とともにAさんを見守っていた傍聴席からも、ホッとした空気が流れた。

松本浩美(出版ネッツ

 

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証人尋問傍聴記(第5回)反対尋問「セクハラを受けたときの大声をここで再現してください」

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

●反対尋問〜「セクハラを受けたときの大声をここで再現してください」

 被告代理人弁護士(男性)による反対尋問では、Aさんが提出した陳述書、証拠(メール、LINE)、証言との食い違いについて質問がなされた。細かな相違を尋ねられて、戸惑うAさん。証言の信ぴょう性を揺るがせるのが狙いなのだろう。
 被告代理人が尋ねる。「体験記事の報酬がうやむやにされてしまったと言いますが、被告から『施術の代わりに報酬はなしで』というメッセージを受けた記憶はありませんか?」。メッセージはAさんが証拠として提出したものだ。覚えていないのはおかしい、というわけだ。Aさんは「嫌な記憶であいまいですが、こういう話があったことを覚えています」と答えた。
 続けて、被告代理人は「施術は本来有料ではなかったのか」と質問。「お金を払うのなら、受けませんでした」とAさん。


 さらに続く。「セクハラを受けたとき大声を上げたそうですが、今ここで再現できますか?」。これは前振りだ。本題は「この日はサロンに客がいたのだから、大声を聞いて誰かやってきたのではないですか?」。Aさんは「いいえ」と否定した。
 月19万円の収入があったのに、月15万円の報酬しか出さない被告は大事なクライアントなのか? という質問もあった。Aさんは「被告は言葉巧みに、信頼関係を築いてきました。性的に不快なことをしたり、被告に悪いところはあっても、良心はあると思っていました」と答えた。


 その他、Aさんが被告に迎合するかのように読めるメッセージをなぜ送ったのか、追及した。例えばAさんは、記事を酷評する被告に対して「わがままを承知で言うと、私の気持ちとしてはもう1か月見ていただきたいです」というLINEメッセージを送っている(8月31日送信)。「今となってはおかしいが、被告の機嫌を取ろうとした」、「なぜ、こんな言葉(わがままを承知で)を使ったのかわからない」とAさん。


 質問は、提訴の記者会見にまで及んだ。会見時に被告の実名を明かしたのは、Aさんの提案ではないか、というのだ。本筋とはまるで関係ない、しかも言いがかりとしか思えない質問に、青龍美和子弁護士が異議を唱えた。
 しかし、その後も被告代理人は「皆さんのために頑張る、とあるが皆さんとは誰か?」(出版ネッツ組合員へのメールの中のAさんの言葉)などと、出版ネッツにそそのかされて提訴したのではないか、と印象付けるような質問を投げかけた。これに対してAさんは泣きながら、「(私を)温かく支えてくれた人たち。その気持ちに応えたい」と感謝の言葉を述べた。


 ちなみに、この弁護士は証拠を提示したときに、Aさんの実名を読み上げてしまった。主尋問でも伏せていた名前を、相手方の代理人が明かしてしまう。Aさんに対する配慮のなさを感じた一瞬であった。

 なお、反対尋問後、長谷川弁護士が再びAさんに、月15万円の被告の仕事がAさんにとってどれほど価値があったのか確認した。それまでの収入には満たないものの、Aさんにとって初めての大きな仕事であったこと、ライターとして実績を積むチャンスと感じたことを証言した。

松本浩美(出版ネッツ

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証人尋問傍聴記(第4回)思い出したくないことを思い出している〜被害者が減ることを願って - フリーライターAさんの裁判を支援する会

証人尋問傍聴記(第4回)思い出したくないことを思い出している〜被害者が減ることを願って

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 11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

〇「思い出したくないことを思い出している」
 セクハラについては、具体的な行為の詳細はもちろん、サロンの間取り図を用いて、どの部屋にどのようにいたのか、ドアは開いていたのか、閉まっていたのか、他に客がいたかいなかったなども問われた。Aさんはその都度、言葉はつっかえながらもしっかりと証言した。とはいえ、答えられなくなった場面もあった。

長谷川弁護士「大丈夫ですか?」
Aさん「……(泣)」
長谷川「今、涙が出ているのはどんな気持ちからですか?」
Aさん「……(泣)…悔しいというか…思い出したくないことを思い出している感じがします」
長谷川弁護士「落ち着いてからでいいですよ」
Aさん「大丈夫です」
 そう答えると、Aさんはしばらく涙声で証言を続けた。傍聴席からもすすり泣く声が聞こえた。

 

〇「カバン持ちになるか、やめるか選べ」
 10月に入ると、Aさんの体調が悪化した。体が震え、睡眠障害が現れるようになった。頭痛、鼻血など自律神経の乱れと思われる症状にも悩まされるようになった。
 それでも、被告から指示された通り仕事をこなした。報酬について問い合わせても、被告ははぐらかすだけだった。
 ついに、無償であれば働けないと被告に告げると、被告は「カバン持ちになるか、やめるか選べ」と言い放った。
 10月21日、契約終了。Aさんは被告の仕事をやめた。

 その後、Aさんは報酬未払いについて東京都労働情報センターに相談。そこから出版ネッツへとつながった。
 心身の状態が悪化していたものの、医療機関を受診したのは、出版ネッツへの相談から3か月近く経った2020年1月半ばであった。なぜすぐに病院へ行かなかったのか。「3か月無償で働いていたのでお金がなく、外出する気力もありませんでした」と証言した。

 

〇被害者が減ることを願って
 最後にAさんは、裁判所へ次のように訴えた。
 「裁判にすることで嫌なことを思い出すので、迷いがありました。それでも裁判すると決めたのは、これからフリーランスとして働く人が、私みたいな目に遭わないでほしい、同じような被害者が少しでも減るようになればいいと思いました。私の気持ちとしては、被告に反省してほしいとかではなく、今後のフリーランスのために、公正な判決をお願いします」。
 被告に対して謝罪も反省も求めない。(その時点では)法廷にいない被告に聞かせたい言葉であった。

松本浩美(出版ネッツ

 

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証人尋問傍聴記(第3回)1日8〜12時間ほぼ毎日記事を書く〜口座開設を指示され交通費1万円を渡される

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

〇1日8〜12時間、ほぼ毎日記事を書く
 8月1日から仕事を開始。以後、被告との契約終了となる10月21日まで続けた。9月30日までは、コラム記事(2000〜5000字)をほぼ毎日執筆して、サイト上で公開。10月からは、被告からコラム記事は2日に1度に減らして美容に関するニュース記事(1000字程度)を毎日書くように指示された。サロンのリピーターを増やしたいという理由だった。
 他にもAさんは、エステの施術中のモデルを務めるほか、SNSでの運用なども行った。被告が用いている施術器具導入店の一覧表もつくった。様々な業務に費やした時間は1日8〜12時間であった。

 

〇責めた後に慰めるふりをしてセクハラ
 ちょうど試用期間が過ぎる8月末頃から、被告はAさんに「こんな記事では報酬を支払えない」「こんな質の低い仕事をするとは思わなかった」などと言って支払いを拒否した。ただし、記事のどこに問題があるのか、具体的な指摘はなかった。
 また、被告はAさんに対して「知識がない」「質問もしてこない」などとなじった。AさんはLINEで積極的に質問していたのに、そのように言われたのだ。さらに、「ほかの仕事をしているから、こんな仕事もできないんだね」などと咎めた。
 このようにして、Aさんはたびたび被告から呼ばれて、パワハラも受け続けた。1時間くらい責められ、たまりかねて泣き出したこともあった。すると、被告は慰めるような態度を示しながら、セクハラを行おうとした。
 その一方でAさんが、今後どのようにキャリアを積んでいけばいいか、被告はAさんから話を聞き出して、アドバイスめいたこともした。具体的には「ビジョン」と称して、Aさんに将来の夢、取得したい資格などをいくつか挙げさせ、優先順位をつけさせた。そして、当時被告が在籍していた美容関係の大学院に、会社の経費でAさんも入学すればいい、などと提案した。

 

〇口座開設を指示され、交通費として1万円を渡される
 被告はAさんが報酬の話を出すと、不機嫌になった。しかし、Aさんは被告に対して何も要求しなかったわけではない。9月4日にAさんが報酬の話をしたら、被告は「経理と相談する」と言った。
 なお、9月30日に被告は突然Aさんを呼び出して、銀行口座を2つつくるように指示した。そして、交通費として1万円を渡し、PASMOにチャージするように言った。しかし、10月に入っても報酬は支払われなかった。

松本浩美(出版ネッツ

 

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証人尋問傍聴記(第2回)セクハラを受ける〜専任のウェブ担当として業務委託契約へ

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

〇セクハラを受ける
 記事執筆後もAさんは、被告から施術を受けた。合計6回、すべて無料だった。しかし、施術はAさんが望んだわけではない。「一度受けると被告から『次の日程は?』と聞かれたので、通ってしまいました」。
 6回目となった6月3日、セクハラを受けた。知り合ってから約3か月が経とうとする頃だった。
 大きな声で抵抗したAさんに被告は言い放った。「こういうことをみんなにしていると思っているだろうが(違う)、あなただからするんだ」。
 帰宅後、Aさんはみぞおちが苦しくなり、吐き気に襲われた。

 

〇アメとムチで「洗脳状態」に
 施術中にセクハラを受けたことから、Aさんは被告に「打ち合わせのときは施術はなしで」と提案した。しかし、被告との縁を切ったわけではない。なぜ、通ってしまったのか。Aさんはその理由を、被告による「アメとムチ」と証言した。
 「被告は私のキャリアについて話をしてきました。こういうことを(エステ、美容について)無料で教わることができるのはすごいことだよ、と言いました」。
 その後、被告によるセクハラ行為はエスカレートしていった。そして、「女性がフリーランスとして生きていくためには、こういうセクハラもかわさないとダメだよ」などと、心構えを説いたりした。
 なぜ、やめられなかったのか。当時の心境をこう振り返る。
 「洗脳状態(にあった)。(やめてとは)言えませんでした。被告の機嫌を損ねるのが怖かったのです」。「被告は話が巧みというか、性的な話をする一方で仕事の話もしてきました。ここに来ることで、自分は成長できるのではないかと思いました」。

 

〇専任のウェブ担当として業務委託契約
 もう一つ縁を切れない理由は、被告との間の業務委託契約であった。
 「ライターとして独立してやっていきたかった。実績をつくるチャンスと思いました」。
 6月4日、被告からAさんに具体的な業務内容と報酬額を書いたメッセージが送られてきた。セクハラを受けた翌日のことだった。
 内容は次の通り。基本報酬は月15万円(税込)。業務内容は、被告サロンの公式サイトを検索結果に上位表示させ、集客、商品購入などを増やすために実施する「SEO対策」である。被告が求めているのは、顧客層である40〜50代の女性が興味関心を抱くテーマ、あるいはキーワードを検索したときに、サロンのサイトが目に付くような記事。Aさんはこの年代の女性たちが抱える悩み(美容、健康、ライフスタイルなど)の改善にサロンが役立つような記事を書く。
 なお、メッセージには「6か月間様子を見させてもらって」「7か月目から基本給30万円以上になっているように結果を残していただけるとうれしいです」ともあった。
 それをもとにAさんは契約書を作成、同月30日被告にLINEで送ると、「1か月様子を見て、本契約を締結したい」という返事があった。「様子を見」る期間が変更になっていた。
翌日7月1日、被告と面談すると、「1か月は試用期間だから、ハンコは押さない」と言われた。
ここまでの被告とのやり取りでAさんは業務委託内容を次のように理解した。月額報酬15万円(税込。交通費は自己負担)。仕事の開始は8月1日から。1か月は試用期間で、8月末日までに本契約を締結する。ただし、もし、8月以後、Aさんが被告サロン以外の仕事をするときは契約を見送る。
 Aさんにとって専任の話は魅力的だった。そこで仕事に専念するため、掛け持ちしていたアルバイトは7月末でやめることにした。しかし、それまで得ていた月収は19万円であり、サロンの仕事15万円だけでは足りない。そこで、フリーランスとして続けていた仕事だけは続けさせてほしいと被告に頼んだところ、「がんばろう」と一言。Aさんは了解を得たと解釈した。

松本浩美(出版ネッツ

 

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証人尋問傍聴記(第1回)被告から「ビジネスパートナーになってほしい」と言われ

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。傍聴席は26席であったが、出版ネッツ出版労連等から46人が集まり、入れ替えて傍聴した。
 私(松本浩美)は、初めてAさんの裁判を傍聴した。証言の最中は一言も聞き漏らすまいと、メモを取るのに夢中であったが、翌日メモに目を通すと、みみずがのたくったような字で書いた一言一言が胸に迫ってきて、通常の神経ではいられなくなってしまった。

 わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんの主尋問での証言をもとに概略を描いたものを、これから10回にわたって連載する。なお、発言はあくまでも私の手書きによるメモであり、裁判記録ではない。趣旨はくみ取ったつもりだが、一言一句正確ではないことをお断りしておく。

■原告Aさん
 13時30分、尋問開始。担当は長谷川悠美弁護士だ。被告との出会いからをAさんに尋ねる。Aさんはかぼそい声ながら、しっかりとした口調で答えていく。

〇被告から「ビジネスパートナーになってほしい」と言われる
 きっかけは、2019年3月9日、被告がAさんに記事の執筆を依頼するメールを送ったことだった。当時Aさんはフリーライターとして自身のホームページを開設していた。被告のサロンで施術を受けて、体験談をAさんのホームページに掲載してほしいという依頼内容だった。メールには仕事として受けてほしいこと、原稿料はいくらかと書かれていた。
 同月20日、被告のサロンで初めて会う。このとき被告はAさんに「ビジネスパートナーになってほしい」と言った。また、Aさんが他社のエステサロンで体験したことがあると伝えると、「比較記事にしてほしい」とも言った。
 その一方で被告は、Aさんに性体験について尋ねてきた。理由を問うと、「エステのカウンセリングでは客とこういう話もする」、さらに「男性エステティシャンは女性の体に触れるので、いろんなことに気を遣っている」と答えた。
 そして、1回目の施術。このとき被告から、「バストを見せてほしい」と言われた。理由はAさんが施術中にくすぐったいと感じて抵抗しているようなので、「一度裸になると受けやすくなる」からだという(思い切って裸になれば開放的な気分になる、という意味か?)。しかし、Aさんは断った。
 2回目の施術のとき、被告から施術前後の比較写真を撮ろうと提案され、下着をずらすように指示された。Aさんは涙声で証言する。
 「今となっては、エステ写真なのに(下着をずらして撮影するなんて)おかしいと思います。でも、当時は信用していたので応じてしまいました」。
 なお、写真撮影は施術による体形変化を示すことが目的なのに、体重等は計測していない。肝心のエステ内容の説明書も渡されず、施術後の写真も撮影されなかった。

 体験記事を送ると、被告からLINEでAさんの仕事を高く評価するメッセージが多数送られてきた。「読みやすい」「文章表現がわかりやすい」「この仕事向いてますね」「能力高いですね。20代半ばとは思えない」などなど。Aさんがホームページに体験記事をアップすると、被告からは「(記事を)活用させていただきます!」とのメッセージが届いた。
 4月28日に被告から、サロンの公式サイトに掲載する記事の制作を専任でやってほしいというメッセージが送られてきた。
 Aさんは被告の役に立ってうれしいと感じた。しかし、その一方で被告は肝心の報酬の話をしてこなかったため、不安になった。Aさんは報酬について確認するため、被告に「減額しても問題ない」とメッセージを送ったが、被告からの反応はなかった。

松本浩美(出版ネッツ

 

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フリーライターAさんの証人尋問の記事が掲載されました【メディア掲載】

Aさんの裁判について、11月17日に行われた証人尋問に傍聴に来ていただいた小川たまかさんの記事が、ヤフーニュースにUPされました。

news.yahoo.co.jp

「原告の女性Aさんは性的な要求や性加害が繰り返し行われたことや、当初の約束通り報酬が支払われなかったことを改めて訴えたが、被告の男性H氏は訴えの内容をほぼすべて否定した。」
という内容を要点をまとめてレポートされています。

また、小川さんは個人的な感想として、「原告のH氏は、傍聴席から見て誠実に答えている印象は持てなかった」と書かれています。

(事務局)

 

 

小川たまかさんの関連記事

news.yahoo.co.jp

11月17日、証人尋問が行われました

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11月17日、東京地裁にてAさんの証人尋問が行われました。

46人の方が傍聴に駆けつけてくださいました。

御礼申し上げます。

傍聴席には26人しか入れず、途中で入れ替えをするという状況でした。

 

証人尋問は、13時15分から17時までの予定だったのですが、18時半までと1時間半も延びてしまいました。

原告への尋問時間が大幅に延び、Aさんは本当に大変だったと思います。

つらい出来事の詳細を話さなければならず、時に涙を流し言葉に詰まりながらも、最後まで事実とそのときに感じた気持ちを証言されました。

心より敬意を表します。お疲れさまでした。

 

詳しい報告は、追ってこちらのブログに掲載します。

この後、最終準備書面を提出、2月に最終の口頭弁論が開かれ、春ごろには判決が出るという流れです。
(事務局)

第9回口頭弁論傍聴記

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※写真はイメージです


 10月6日、フリーライターAさんが起こした裁判の第9回口頭弁論が開かれました。

前回の口頭弁論で被告側から陳述書と証人申請が提出されなかったため(代わりに出された上申書には、①9月22日に証拠申出を行わないこと、②原告・被告間の遮蔽措置に反対すること、③被告・傍聴席間の遮蔽措置は希望することが記されていました)急きょ設定されたもので、出版ネッツからAさんを含め7名、全体で16名の傍聴支援がありました。


 当日は被告本人の他、Aさんと一緒に食事等をした女性の陳述書も提出されました。ただし申請した証人は被告のみ。そのため裁判官から、証人として採用するのは原告と被告のみとの判断が下されました(原告側はAさん本人のほか、最初にAさんから相談を受けた杉村和美さんの証人申請もしていました)。
 結果、11月に東京地裁で行われる証人尋問の持ち時間は、原告が主尋問(原告側代理人が原告に対して行うもの)が55分で反対尋問(被告側代理人が原告に対して行うもの)も55分、被告が主尋問(被告側代理人が被告に対して行うもの)45分で反対尋問(原告側代理人が被告に対して行うもの)が55分となりました。


 なお原告・被告間の遮蔽措置に関しては、裁判長から具体案の提示を求められていたことから認められるはずです(被告・傍聴席間の遮蔽措置は「裁判は公開で行う」との原則から外れるため、おそらく認められません)。


 裁判も山場ということで、証人尋問ではいつもより大きな法廷が用意されます。多くのみなさんが傍聴により、Aさんを支援することを望みます。

(澤田裕/編集)

 

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