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加害者と仕事を続ける場合がある ~『その名を暴け』にみる被害者心理(2)~

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 前稿で「被害者がNOをいうのは簡単じゃない」ということを書いたが、引き続き『その名を暴け』の証言者の多くに共通している点について書きたい。

 

 それは「その後も、加害者と仕事を続ける人が多い」ということ。キャリアのために、生活のために…というのが主な理由だが、当然ながら心身の負荷は大きい。「性被害を受けた人は即、警察に駆け込み、加害者とは二度と遭わずに再スタートするはず」というのは幻想に近いもののようだ。

 

たとえば、前稿で例に出した加害者ハーヴェイ・ワインスタインが運営する映画製作会社ミラマックスのロンドン支社の従業員だった2人の女性(被害当時ともに20代)の場合…。

 

ローラ・マッデンは、その後、ミラマックスに6年間とどまった

被害に遭ったことは女性の同僚に打ち明け、彼女経由でワインスタインから「二度としない」という「誓い」をしてもらった。ロンドン支社勤務だったので、アメリカ人のワインスタインとは距離があり、安全でいられたのも大きかった。過去については「妥協しながら」日々を過ごしたという。その後映画界を去り、結婚・離婚を経験し、シングルマザーになったあとも「人からとがめられることをしたという感覚を消せないでいた」「会社から逃げ出さなかったことを世間から責められるのが怖くて、声を上げること」ができなかったという。

 

ロウィーナ・チウは、先輩の女性社員(ゼルダ・パーキンズ。自身もワインスタインの被害者)が力強い味方になってくれた。2人は弁護士に刑事事件の手続きを求める。「物質的な証拠がない」として示談をすすめられるが、目的は無条件に示談金を得ることではなく、「会社に変革」を起こすことだと主張。示談書には「ワインスタインの行為をやめさせるための条件」として、「セラピーを受けさせること」といったことを盛り込んだが、相手方からは示談金支払いのために事件の口外を禁じられる守秘義務を結ばされるという報復に遭う。

これでは、映画界で新たな職場を求めて転職活動をしても「ミラマックスという一流企業をなぜ突然辞めたのか?」という面接での質問に答えられない。当然ながら再就職活動は頓挫した。

 

被害から9ヶ月後、チウが採った選択肢は、加害者の会社であるミラマックスに復帰することだった。示談の際、同社は彼女の再就職先に推薦状を出すことを約束しており、そのため彼女は顧問弁護士に他社への伝手の紹介を頼んだのだったが、その依頼に弁護士は「戻ってこないか?」と答えたのだ。チウは香港を拠点に仕事をすることになった。上述のマッデンと同じくアメリカのワインスタインと距離を置けたことが奏功したのか、新天地での仕事に夢中になった。

 

 しかし、「ハリウッド映画にリメイクできるアジア映画を探すこと」という彼女に任された仕事にいくら真剣に取り組んでも、アメリカ本社からの反応は薄いものだった。しだいにチウは気づく。「この仕事が自分をワインスタイン傘下に留めておくために考えだされたまやかし」だったと。その後鬱病になり、すべてと「縁をきって」、故郷のロンドンに戻ったのは、自殺未遂を2度起こしたあとだった。

(木下友子)

 

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