フリーライターAさんの裁判を支援する会

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被害者がNOをいうのは難しい  ~『その名を暴け』にみる被害者心理(1)~

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 2017年ハリウッドの映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの20年以上にわたる女優たちへのセクハラが発覚。#MeToo 運動に発展した。

書籍『その名を暴け』(ジョディ・カンター/ミーガン・トゥーイー著)は「ニューヨーク タイムズ」の女性記者2人が第一報を報じるまでの軌跡と当事者女性たちのその後を追ったノンフィクション。

 

 本書に登場する女性たちの被害実例について、このAさん裁判に関心がある人と分かち合うべく、数回に分けて文章を書きたい。

 

 2人の記者がこの問題の調査を開始したのは、女優ローズ・マッゴーワン(※1)の「以前某プロデューサーにレイプされた」とツイッターへの投稿を目にしたことがきっかけだった。関係者への綿密な取材を通して明らかになったのは、大勢の女性が性的被害を受けながらも、「秘密保持契約」の下、それを口外することを阻まれていたことだった。

 報道の盛り上がりに押されるように、ワインスタインは司法追及され、2020年3月、ニューヨーク最高裁判所にて、禁固23年の判決が下り、現在服役中である。

 

なだめたり、「達したふり」をして、逃れるしかない

本書を読んで、あらためて衝撃を受けるのは被害を受けた女性たちが、一様に「その場では明確に拒絶できなかった」と語っていることだ。

 

「……これが普通のことなのかもしれないと精神的に完全に追い込まれてしまった感じがした」 

ローラ・マッデン

 ワインスタインの泊まっていたホテルの部屋に呼ばれ、「マッサージをしてほしい」という要求に応え、それがエスカレートした結果、「シャワーを浴びよう」と誘われたマッデン(※2)。ワインスタインの指示どおり、服を脱ぎ、シャワーをともに浴びた。自慰行為をみせられたことで悲鳴を上げ続けると、ようやくワインスタインはシャワー室から出て行った。

 

「……わたしはすぐにはNOといえなかった。そんなふうに彼と対決したくなかった」 

ロウィーナ・チウ

 出張先のホテルで「脚本読み」という作業をワインスタインとしているとき、「マッサージをしてあげる」と誘いを受けたチウ(※3)。「仕事を続けたい」と断りながらも、「なだめるため」にタイツを脱いでマッサージさせざるを得なかった。4時間に及ぶやり取りの中で、ベッドまで運び込まれ、足を大きく広げられる被害に遭った。

 

「頭が真っ白になったの。ここから生き延びることだけを考えていた」 

ローズ・マッゴーワン

 浴室にひきずりこまれ強引に裸にされたマッゴーワンの場合は、「そこから逃れるためにオーガズムに達したふり」までしたという。

 

 日本では、性暴力が刑事裁判で有罪となるには、いまだに「加害者は暴行・脅迫したか」「被害者は抵抗したか」が重要となる。俗に「抵抗要件」などといわれるものだが、諸外国では、これが撤廃されつつある。「被害者はセクハラ行為中、心身がフリーズし、抵抗できないものなのだ」という被害者心理についての社会的合意が形成されつつあるのだ。喜ばしい。日本の場合は、暴行・脅迫や抗拒不能(身体的または心理的に抵抗できない状態)が認められないとして不起訴となった性犯罪事件は年間200件近くに及ぶ(2018年度の法務省データ)。

 

 性被害は誰にも起こりうる。職業や年収、社会的地位の高低に差はあっても、その被害は等しく衝撃的で、「拒絶が難しい」ものなのだ。そして、それを口外するには大変な勇気が要る。高額なギャラを得ているハリウッドの女優や映画産業で働く女性たちでさえ、そうなのだ――ということを胸に刻みたい。

(木下友子)

 ※1 出演作に「デス・プルーフinグラインドハウス」など

※2「ミラマックス」ロンドン支社の従業員

※3「ミラマックス」ロンドン支社のアジア系従業員

  ミラマックスは、当時、ワインスタインが経営していた映画製作会社

 

f:id:withyou_nets:20210107230226j:plain 出版社:新潮社、翻訳:古屋美登里

 

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