「子育てしながら働く権利」に最高裁は真剣に向き合ったのか? 〜マタハラ裁判原告へのエール〜
2020年12月8日、最高裁は、子どもを育てながら働く権利をめぐって争われた訴訟(=マタハラ裁判)の上告を棄却しました。昨秋、Aさんの裁判支援集会に「原告同士励まし合っていきましょう」とメッセージ(*1)を送ってくれた「女性ユニオン東京」組合員の女性が原告となっている裁判です。私たちフリーライターAさんの裁判を支える会は、この棄却に強く抗議します。
(*1)
「支援する集会」リレートークより〜ハラスメントは誰にでも起こり得ることだからこそ
- マタハラ裁判とは?
育休明けに保育園が見つからなかった原告が、勤務先の会社の提案を受け「正社員に復帰できる前提の契約社員」として仕事に復帰したところ、1年後に契約終了で雇い止めにあい、その際会社から雇用関係不存在で提訴されたため、地位確認の提訴をしたものです。裁判は、次のような経緯をたどりました。
一審(東京地裁)判決 雇い止めは無効として、被告に対する損害賠償が認められた。
二審(東京高裁)判決 雇い止めは合理的理由があったとして逆転敗訴。ハラスメントの証拠としての録音は否定し、「録音は服務規律違反」とした。また、記者会見での発言を名誉棄損とし、原告に55万円の賠償を言い渡した。
最高裁 上告棄却で東京高裁判決が確定。
「女性ユニオン東京」のホームページには、原告弁護団とユニオンによる抗議の声明がアップされています。
声明によると、最高裁は「事実誤認または単なる法令違反」として、原告の訴えを切り捨てたといいます。事実誤認があるとわかっても、審理を行わないとは……。高裁の不当判決後に集められた、出版ネッツを含む815の団体からの「弁論を開いてほしい」「高裁判決を棄却し、育休明けに原職復帰して働き続けることができるような判断をしてほしい」という声は無視されてしまいました。
原告の悔しさを思うと胸が詰まりますが、5年にわたって厳しい闘いを担ってきた原告に、まずは心からの敬意を表します。
- 問題の多い東京高裁判決
この裁判に多くの人々が注目していたのは、高裁判決の内容があまりにも不当で、これを放置すると社会への負の影響力が大きいことが懸念されたからです(*2)。
東京高裁判決の主な問題点はふたつあります。
ひとつは、育休明けの正社員を有期契約社員化し、その後に雇い止めをするという、「育休切りの新たな手口」を容認したことです。被告である会社はフルタイムでは働けない社員のための時短勤務の制度を設けましたが、それと有期雇用への切り替えがセットになっていたのは問題です。育児・介護休業法は、育児を理由にした不利益な取り扱いを禁じていますが、契約社員であれば契約満了で雇い止めすることが可能になってしまうからです。こうした法の抜け穴が容認されたことは、出産後も働き続けたい人にとって大きな打撃です。
もうひとつは、会社側の発言を録音しマスコミに提供したことを雇い止めの理由とし、提訴時の記者会見での発言を会社への名誉毀損と判断したことです。不利益を被った者が記録を残したり、記者会見で広く社会に訴えたりすること自体を問題視することがまかり通ってしまったら、声をあげることができなくなってしまいます。加えて、報道の自由や市民の知る権利を脅かすことにつながるでしょう。
実際に、この高裁判決が出た2019年11月以降、職を奪われた人が裁判を起こし記者会見したことに対し、名誉毀損として会社側が「反訴」を起こすケースが出てきています。
解雇やハラスメント被害にあった人の声を封じる効果をもたらす高裁判決を見直すことなく、上告を棄却した最高裁は、働く人々の権利を容易に侵害しうる非常にあやうい社会状況を作り出してしまったといえます。わたしたちはこのような動向を注視しつつ、さらなる闘いを進めるマタハラ裁判の原告と連携し、ハラスメントのない社会に向けての取り組みを続けていきます。
(事務局)
(*2)高裁判決の問題点については、竹信三恵子さんの2つの論考が参考になります。