フリーライターAさんの裁判を支援する会

すべてのハラスメントにNO!性暴力と嫌がらせ、報酬不払いを許さない! 勇気をもって声をあげたAさんの裁判を支援する会です。出版ネッツのメンバーが運営しています。

性や男女平等に関わる教育の後退が事件の背景に

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2021年12月に開催された「Aさんを支える会 総会」での広報チームメンバーの発言を紹介します。
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 Aさんを支える会の広報チームは2020年9月に発足し、Aさんの裁判の支援の輪を広げるため、13人のメンバーで、このブログやTwitterFacebookに裁判の傍聴記や学習会の報告などを掲載し、発信をしてきました。

 さて、今夜はAさんに2つのことをお伝えしようと思います。
 1つは、あなたは立派に闘っているということです。裁判を起こすと決めてから今日まで、きっと多くの葛藤や苦しみがあったことと思います。でも、先日の証人尋問の際のあなたは、つらい質問にも真摯に答えていました。
 訴えられた内容を被告がことごとく否定し、投げかけられた質問にまともに答えないばかりか、曖昧で矛盾だらけの言葉しか発しない時も、あなたは凛としてまっすぐ前を見つめていました。その姿に心から敬意を覚えました。裁判はまだ終わったわけではないけれど、今はとにかく心と体を休めてください。

 もう1つは使い古された表現ではありますが、セクハラは決してあなたのせいではないということです。2020年8月26日、マスコミ向けのレクチャーの際に、あなたは自身が被った性被害について、「私に知識がなかったから、何をされてるのかよくわからなかった」という趣旨のことを話されました。この言葉を聞いて、教育関係の編集の仕事をしてきた私は、「自分はこれまでいったい何をしてきたのだろう」と深く恥じ入り、責任を感じました。
 というのもあなたが性や体について、つまり人権や尊厳について知識がなかったのだとしたら、それはこの国の性教育がとても貧しいからなのです。
 実は1990年代、小中高では性教育を豊かにしていこうという機運が生まれ、たくさんの出版物が作られ、教育実践も盛んでした。しかし、90年代末から2000年代前半にかけ、性教育やさまざまな男女平等に関わる運動は激しいバッシングにさらされました。あなたが小学校高学年から中学生であった頃は学校現場が萎縮し、家庭でも「性」を学ぶ機会は余りなかったのではないかと想像します。
 その一方で、主として若い女性や幼い女の子の性を消費する文化、女性を社会経済的に対等に扱わない文化は、この社会に、インターネット上に、路上やマスメディアや出版物の中にも蔓延しています。人の尊厳を踏みにじるセクハラがいまだに起こっていることを、私たちはもっと恥じ、怒り、変えていかなくてはいけないと改めて思います。
 
 つらい思いを超えて、「もうこんなことが起こらないように」と裁判に踏み切ったAさん、広報チームの一員として関わらせていただいて、ありがとうとお伝えしたいと思います。
この社会を少しでもよくしていくため、これからも一緒に歩んでいきましょう。

山家直子(出版ネッツ
 

 

裁判官の皆さんへ 〜もうひとつの証言

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2021年11月に行われた証人尋問を傍聴していた人が、自身の体験を書いて送ってくれました。

誰にも話せないことがある――それはなぜなのか。

裁判官たちにぜひ読んでほしい、もう一つの証言です。

 

ーーーーーーー

 

昨年11月のAさんの証人尋問をつぶさに聞いて、ずっと考えていたことがあります。

 

Aさんへの反対尋問の「(被害と言いながら)被告に迎合するようなメールを送っているが」という問い。

そして裁判官からの補充尋問の「あなたはちっとも悪くないのに、被害を家族に言えなかったのはどうしてか」という問い。

 

その問いに答える前に、ひとつ、私の体験を聞いてください。

 

 

あれは私が小学校低学年だったときのこと。

 

うちは母子家庭で母は働きに出ていたので、私は自分で玄関の鍵を開けるいわゆる鍵っ子でした。きょうだいもなく、学校が終われば母が帰宅するまでは一人で留守番です。

 

その日、いつものように学校から一人で歩いて帰り、アパート敷地の門を閉め、1階の自宅のドアの前に立ったとき、後ろから誰かが門を開けて入ってきました。

 

振り返ると見知らぬ男の人です。おじさんというほどの年でもないけれど学生でもない感じ。

その人は少しほほえみながら「一人?」とか「今帰り?」などと話しかけてきました。

まっすぐこちらに近づいてくるのでうちに用事がある人かと思いつつも、家に誰もいなくて私が鍵を持っていることを知られたらどうしようと緊張しながら受け答えしていました。

 

けれどそのうち、「お小遣いあげようか」とか「お菓子を買ってあげる」「動物園に連れて行ってあげる」などと言い出したので、ものすごくびっくりしました。

だって、普段から母に、人さらいのような悪い人はこう言って近づいてくるから決してついて行ってはいけないよと言われていた、その通りのセリフだったからです。

 

「ああ、これがお母さんが言ってた人さらいって人かぁ」

なんてばかな人だろうと思いながらも、私はすべての誘いを丁寧に断りました。

 

するとその人は今度は「ちょっとこっちに来て」と私の肩を抱くようにして、玄関の前から、アパートと隣家の塀の間の大人ひとり分の幅しかない隙間に連れて行きました。

そこへ入り込んでしまうと外の通りからはもちろん、門から誰か入ってきても全く見えません。アパート側には隣室の窓がありましたが閉まっていて暗く、住人がいる気配はしませんでした。

 

こんなところで何をするのかと思っていると、男の人は私の前にしゃがみ込み、何か話しかけながら両手で私のズボンを下ろしました。

えっ?と思ううち、男の人の片手が私の下着の中に入ってきて、指先で股を何度も撫でられたのです。

 

えええ〜〜………!

 

…まずいことになったことを理解し、やめてほしいと思いましたが、ひたすら恥ずかしいのと、何かやましい雰囲気に呑まれたような、こちらがものを言ってはいけないような説明のつかない気持ちがして言葉が出ず、うつむきながら足を前後にして固く閉じました。

すると男の人から「もう少し足を開いて」と言われてしまい、えええ――っ!? 

どうしてもイヤでしたが、パンツに入れていない方の手で腰のあたりをつかまれていて逃げられる気がせず、渋々ちょっとだけ足を緩めました。

 

しばらくそうして私の股を触ったあと、男の人は私の下着から手を抜いて、ポケットから小さな紙包みを取り出しました。

手のひらの上で大事そうに包みを開くと、私の顔の前に差し出しながら言いました。

「これはね、気持ちよくなるお薬だよ」

それは白い粉末でした。

 

何の薬かはそのときも今も私にはわかりません。

でもこの白い粉を見せられた瞬間、頭の中でがんがん警報が鳴り出しました。

何か非常にやばいことになった、何としてでもここから逃げ出さなければならないと。

 

男の人は、その白い粉の匂いを嗅ぐようなしぐさをしてから指先につけ、また私の股を触りました。粉を私の性器にこすりつけるようにして触りながら、「もう少しだよ、もう少しで気持ちよくなってくるからね」と言うのです。

 

でも私はちっとも気持ちよくありません。それよりもどうやったらここから逃げ出せるか、がんがんする頭でそればかりを考えていました。膝はがくがく震えていました。

 

私の反応が鈍いと思ったのか彼は私から手を離し、再度粉を指にとりまた入れようとしました。

そこですかさず私は両手のひらを相手に向けて言いました。

 

「ちょっと待っててね。表に人がいないか見てくるから」

 

すると男の人は素直にうなずき手を下ろしたので、私はいかにも人目を気にするふうを装って静かに一歩ずつあとずさりながらその人から離れ、建物の隙間から出ても門までは抜き足差し足で行きました。

このときの数メートルが私にはもっとも恐ろしい時間でした。

 

逃げ出そうとしていることがバレて今にも飛びかかられるのではないかという恐怖と闘いながら、やっとのことで門までたどり着き恐る恐る振り返ると、彼は私を信用して大人しく待っているらしく、こちらを覗いてもいません。

 

そうして門の外まで体が完全に出たと同時に、後も見ずに脱兎の如く走って逃げました。

 

 

一目散に向かった先は自宅から200メートルほどのところにある交番。中にはお巡りさんが一人いて、机に向かって何か書いていました。

肩でぜいぜい息をしながら、これで助かった!と心底ほっとしたことを覚えています。

 

ところが、です。

交番に入って、たった今すごく恐ろしい目に遭ったことを言おうと思うのですが、足が動きません。

「家の前に変な人がいる」と言ったらその変な人にされたことも言わなくちゃならないんだよね……? 

そう思ったらなんだかものすごく恥ずかしくなってしまい、どうしても中に入れないのです。

 

家の近くにまだいるかもしれないあの人をなんとかしてほしいけど、お巡りさんに「あのこと」を面と向かって言えるだろうか……

 

もじもじしながら交番の前を何度も行ったり来たりした挙げ句、起きたことを正直に全部話せないのならお巡りさんにも助けを求めることはできない……

そう思ったら絶望的な気分になり、またお腹の底から恐怖が湧き上がってきました。

私が逃げたことにはすぐに気づいただろうから、私を探してこの道を追いかけて来るかもしれない、見つかっても交番には飛び込めないならここにいても危険だ――。

 

書類に没頭していて前でうろうろしている私に全く気づかない警官を、後ろ髪を引かれるような思いで振り返りつつ、心細さで泣きそうになりながらもそこを離れ、また走りに走って今度は駅向こうの丘の上の祖父母の家へ行きました。

しかし間の悪いことに留守。

滅多にないことに信じられない思いで呼び鈴を何度も押していたら、隣の顔見知りのおばちゃんが出てきてくれ、おばあちゃんたちはおつかいに行ってるみたいだからうちで待ってる? と親切に声をかけてくれました。

 

ヘトヘトで喉もカラカラだったし、いつもなら喜んで上がらせてもらうところでしたが、もし「今日はどうしたの?」とでも問いかけられたらやっぱり言えないと思い、遠慮してすごすごと祖父母の家をあとにしました。

 

日は暮れかけていてもう行くところもなく、こわごわ家に帰ることにしましたが、さすがにもういなくなっているだろうとは思ってもアパートの門が見えたときには足がすくみました。どこかから見られているような気もしたし、玄関の鍵を開けている間にさっきの隙間から出てきて襲われるんじゃないか、そんな恐怖を無理に払いのけて鍵を開け家に飛び込みました。

 

家ではちょうど母が勤め先から帰ってきたところだったようで、いるはずの私がいなくて訝しんでいました。

「こんな時間までどこに行っていたの」

 

…私は母に一部分嘘をつきました。

 

人さらいに連れて行かれそうになったがなんとか逃げて、交番へ行ったが警官はいなかったから祖父母の家へ行ったがそこも留守だったので帰ってきた、と。

 

いろいろ誘われたことは話せても、下着の中に手を入れられて触られたことはとても私の口からは言えませんでした。

恥ずかしいという以外にも、例えば私がぼうっと歩いていたから目をつけられたとか、痴漢されるような状況に陥ってしまったこと自体を私の落ち度として咎められるのでは…と本能的に感じたからだと思います。

 

結局この事件の真相は、半世紀近く経った今も母には話せていません。

 

 

これから判決を書くAさんの裁判官の皆さん。

私はあのとき、加害者から逃げ出すために、明確に自分の意思をもって、加害者に迎合するセリフを言い協力するようなそぶりを見せました。

しかし、私自身は断固として加害者の行為に同意はしていません。

すべて自分の身を守るためにやったことです。しかも誰にも教わらずにです。

年端もいかない子どもでさえ咄嗟にこのくらいのことを思いつくのですから、体力的にも心理的にも圧倒的に弱い立場の被害者が、自分を守るために加害者の機嫌をとって迎合するのは当たり前の人間心理ではないでしょうか。

 

また、親も学校の先生も、知らない人や怪しい人についていってはいけないということは繰り返し教育していましたが、痴漢されたときにどのように対処するべきかは一度も教わっていませんし、そういうことをされたあとの心のケアの仕方についても誰も知識がありませんでした。

だから、私は何も悪くないのになぜか後ろめたいような恥ずかしい気持ちになり、本当のことを言ったら怒られるような気がして言えなかったのだと思います。

 

そういう被害者の心理状態や行動様式に、年齢差はあまりないと思います。

 

2021年11月17日、長くつらい証人尋問にAさんは凛としてまっすぐに背筋をのばして臨み、最後まで顔を上げて証言しました。

私は今、あのとき子どもだった被害者として、Aさんの隣に並び立ちたいと思います。

 

 

被害者B(フリーライターAさんの裁判を支援する会・広報チーム)

 

 

withyou-nets.hatenablog.com

証人尋問傍聴記(第10回)最後まで向き合ったAさんに、何度でも拍手を送りたい

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

◆最後まで向き合ったAさんに、何度でも拍手を送りたい
 証言を聞いて、Aさんを支配下に置こうと、気まぐれにかわいがっては虐待する姿が何度も目に浮かんだ。
 Aさんは被告から離れられなかった理由を「アメとムチ」「洗脳状態」「キャリア」「成長」という言葉を使って説明した。
 Aさんは20代半ばで、まだ若い。しかも、会社に長年所属して実績を積んだわけではなく、経験が浅いままフリーランスになった。そこを見抜いた被告は、思うままに操ろうとしたのだろう。


 被告はエステサロンの経営者であり、美容の専門家という肩書を持つ権威である。その被告が、初対面のとき「ビジネスパートナーになってほしい」と言ってきた。これはライターとしての能力、あるいは可能性を見出していると解釈するだろう。少なくともAさんの警戒心は解かれるし、被告に対する印象は格段によくなる。
 そのため、被告から性体験について尋ねられ、多少の不信感は抱いたかもしれないが、いかにもプロらしい回答を聞いて、納得してしまったのではないか。しかも、Aさんにとって被告は重要なクライアントである。


 その後、被告は記事を絶賛したうえ、Aさんが自分のもとに足を運ばざるを得ない状況をつくっていく。例えば、6回の無料施術。本来記事を書くために受けたのは2回で、その後4回も施術を受ける必要はなかった。しかし、打ち合わせに行くと「次の日程は?」と尋ねられ、予約するように仕向けられる。
 業務委託契約の話をするとともに、美容のプロである自分から、今後活動するうえで大事な知識、情報を直接教わることができるなんて、めったにないことと言いくるめる。それを受けてAさんも、セクハラさえ我慢すれば自分の成長にとって必要な人と思い、離れることはしなかった。
 業務委託が始まってからは、1日の大半を被告とサロンの仕事に費やし、まさに専属となった。当面の収入だけでなく、もしかして自分の将来を左右するかもしれない被告である。仕事を始めたばかりの今、被告の機嫌を損ねてはいけないと考える、嫌なことがあっても我慢しなければと思うのが普通ではないか。 交互にやってくるアメとムチ。被告は報酬は払わないが、銀行口座を作るように指示したり、交通費として1万円渡したりする。こうしたところは、カルトの教祖をほうふつとさせる。信者を虐待する一方で、気まぐれに見せる優しさ。Aさんはからめとられそうになりながら、ボロボロにされながらも逃げた。

 

 そして、迎えた今日という日。勇気を振り絞って証言したのに、配慮のない尋問が多数浴びせられた。でも、泣きながらもきちんと答えた。被告の本人尋問のときも法廷内でずっと聞いていた。最後まで目をそらさず、事件と向き合った。何度でも拍手を送りたい。

 

裁判官へ。
 Aさんは、親の反対を押し切ってフリーランスになりたいと努力してきた。あなたたちも努力に努力を重ねて司法試験という難関を突破して、今その地位にいる。もし、法曹界に進みたくて、勉強の時間を確保するため、ギグワークあるいは個人事業主として働きながら受験勉強に励んでいる若い人がいたとする。その人が賃金未払いのうえセクハラ、パワハラを受けたとしたらどう思うか、考えてほしい。
 それから、ぜひフリーランスの実態を知ってほしい。月15万円が定期的な収入として保障される意味。そして、金額の多寡だけで仕事を選ばないということも。フリーランスにとって、自分の成長の可能性も大事な選択肢だということも知ったうえで判決文を書いてほしい。

松本浩美(出版ネッツ

 

証人尋問傍聴記(第1回)被告から「ビジネスパートナーになってほしい」と言われ - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第2回)セクハラを受ける〜専任のウェブ担当として業務委託契約へ - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第3回)1日8〜12時間ほぼ毎日記事を書く〜口座開設を指示され交通費1万円を渡される - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第4回)思い出したくないことを思い出している〜被害者が減ることを願って - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第5回)反対尋問「セクハラを受けたときの大声をここで再現してください」 - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第6回)補充尋問〜被害者を責めるような質問も - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第7回)遮蔽板を設置、姿を隠して証言〜誘導尋問に終始、Aさんの主張をすべて否定 - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第8回)被告の反対尋問、質問に答えず裁判長から何度も注意〜時に饒舌に - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第9回)怒涛の一日を振り返って - フリーライターAさんの裁判を支援する会

証人尋問傍聴記(第9回)怒涛の一日を振り返って

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

●集会……怒涛の一日を振り返って
 閉廷後、裁判所隣の弁護士会館で、Aさんと2人の代理人弁護士、支援者が集まり、集会を開いた。2人の弁護士は尋問を次のように振り返った。

 

〇長谷川弁護士
 本件は、Aさんが関わった期間は1年に満たないのに、たくさんの争点があり、複雑な事件。
 Aさんにとって思い出したくないことを思い出すのは、本当につらい作業だったと思う。でも、きちんと思い出して、言うべきことは全部きちんと話してもらった。また、思い出したくないことを話す、つらい気持ちも話してもらった。尋問が終わった後、Aさんは「涙腺が崩壊した」と言ったが、それぐらいストレスと緊張があったと思う。本当にお疲れさまでした。

 

〇青龍弁護士
 複雑な事件のため、原告と被告双方で55分の尋問時間を大幅に超えてしまった。被告の主張を裏付ける客観的な資料はほとんどない。被告の代理人は、本人にしゃべらせない方針で臨んだのだろう。反対尋問では矛盾することばかり証言した。事実認定でどこまで勝ち取れるか。引き続きご支援をお願いします。

 

 なお、両弁護士ともセクハラに関しては、「どのように認定するかはわからないが、具体的な場所やドアの状態について細かく尋ねていたので、Aさんが声を上げても聞こえない可能性がある、ということ自体は裁判官の頭に入ったのではないか」とのことであった。

 

 最後にAさんから挨拶があった。
 「今日もお忙しいなか、来ていただいてありがとうございます。尋問を通して、本当に弁護士の先生お二人に助けられて、すごいかっこよくて感動しました。皆さんの顔を見るだけで、ちょっと……。つらくても今日を迎えられたのは、本当に皆さんのお陰だなと。ありがとうございました」

 

 今後の予定は、来年(2022年)1月末までに最終準備書面を提出。2月16日に最終の口頭弁論、春ごろには判決が出る予定だ。

松本浩美(出版ネッツ

 

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証人尋問傍聴記(第8回)被告の反対尋問、質問に答えず裁判長から何度も注意〜時に饒舌に - フリーライターAさんの裁判を支援する会

証人尋問傍聴記(第8回)被告の反対尋問、質問に答えず裁判長から何度も注意〜時に饒舌に

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

〇質問に答えず、裁判長から何度も注意
 主尋問では素直に答えていた被告であったが、反対尋問になると様子が一変した。担当は青龍美和子弁護士だ。
 質問に対して質問で返して、まともに答えようとしない。例えば、「あなたは〇〇しましたね?」と問われると、「〇〇?(語尾が上がる)…え、〇〇?、〇〇ねえ、ブツブツブツブツ、〇〇って何ですか?」という感じではぐらかす。
 青龍弁護士は何度か「聞かれたことに答えてください」と注意したが、一向にやめようとしない。
 たまりかねた裁判長が「あなたは聞く立場ではなく答える立場です!」と一喝した。「聞かれたことだけを答えてください」という言い方はあるが、「立場」という言葉を使った注意を初めて聞いた。
 傍聴席からは何度も笑いが漏れ、裁判長から「静かにしてください」という注意も。それでも被告の態度は変わらず、以後裁判長から何度も注意を受けることになった。


 とはいえ、はぐらかすのも限界がある。焦ると言葉に詰まってくる。

青龍「あなたと原告とのLINEの送受信の記録があります。これを読むと、あなたは契約書を作成しようとしていましたよね?」。
被告「しようとしていた? え、しようとしていた? しようとしていた?」
青龍「はい、見せますね。(証拠提示)ここに報酬額が書かれていますよね」
被告「…記憶が薄いです…」

青龍「あなたは原告の能力を高く評価していましたよね?」
被告「高く? …普通に評価していました」
青龍「原稿がわかりやすい、と言いましたよね」
被告「普通に…定義が違います」

 反対尋問でも、原告に対してセクハラはしていないと否定したが、「施術中の写真は原告から頼まれて撮ったもの」「性的な話は原告の方から悩みとして相談された」と証言した。
 では、どんな状況で原告が悩みを相談したのか問うと「わからない」。さらに客に対して、性体験を訪ねることはあるのか問うと「ない」と答えた。ちなみにAさんは主尋問で、「被告は、客から性体験の話を聞くこともあると話した」と証言している。
 とはいえ、聞いていてとにかく訳がわからない(後から、ノートを見直してみても、意味不明な個所は多数あった)。そのうち本人も混乱してしまったのか、「今はどのトピックですか?」と弱々しい声で尋ねたこともあった。

 

〇「ウェブは重視していない」
 AさんはSEO対策をメインに、ウェブに関わる業務を行っていた。被告の主尋問での「記事が予約につながらないと言った」という証言を受けて、青龍弁護士が「予約がないということは、質が低いということか?」と問う。すると、「そんなことは言っていない」と否定した。
 ここまでの話は、ウェブは重要な集客ツールであることが前提である。しかし、そうではなかったらしい。「うちは完全予約。誰かの紹介が必要。一見の客は入れない」とも証言。青龍弁護士が「では、ウェブの記事を見て申し込んできた客は受け入れるのか?」と問うと「カウンセリングをしてから」と訳のわからない回答。
 裁判官による補充尋問でも矛盾だらけの証言は続いた。左陪席から、「Aさんが勝手に記事を毎日ホームページに挙げていたというが、あなたは知らなかったのか?」と問われると、「本人から報告がないのでわからなかった。うちではウェブは重要ではないので」とも答えている。

 

〇時に饒舌になる被告
 都合が悪いとはぐらかしたり、言葉に詰まったりするが、得意分野になると饒舌になるようだ。
 右陪席から「ケアという言葉の意味を教えてほしい」と問われると、「私の中ではケアはカウンセリングも含まれる。食事、美容、化粧品、ヘア、ファッションも。私はエステティックという言葉を、その人の人生、ライフスタイルという意味で使っています」。ほかにも聞かれもしないのに、サロンの経営について「借入ゼロ」「無借金経営」などと胸を張った。

 ここまでのやり取りを見て、Aさんが被告について「言葉巧みに」と表現した意味、そして、Aさんが報酬について話を切り出してもうやむやにされてしまった状況が理解できたような気がした。

 エステティックという言葉が「その人の人生、ライフスタイル」という意味であれば、この日の証言をどうとらえるのかを聞いてみたい。

 

 18時15分尋問終了。18時30分閉廷。当初の予定を1時間半過ぎていた。傍聴者にもさすがに疲労の色がにじみ出ていた。

松本浩美(出版ネッツ

 

証人尋問傍聴記(第1回)被告から「ビジネスパートナーになってほしい」と言われ - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

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証人尋問傍聴記(第7回)遮蔽板を設置、姿を隠して証言〜誘導尋問に終始、Aさんの主張をすべて否定 - フリーライターAさんの裁判を支援する会

証人尋問傍聴記(第7回)遮蔽板を設置、姿を隠して証言〜誘導尋問に終始、Aさんの主張をすべて否定

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

〇遮蔽板を設置。姿を隠して証言
 20分の休憩を経て、16時5分再開、被告の本人尋問である。
 入廷するとすでに遮蔽板が設置され、その中に被告はいた。遮蔽板で囲われているため、傍聴席からも原告席にいるAさんからも被告の姿は見えない。
 被告は自分の姿をさらしたくないと、遮蔽板の設置を要求したという。弁護団は異議を出したが、「傍聴人がたくさんいると尋問に影響するから」という被告の要求が認められ、このような形での証言となった。
 長谷川弁護士によれば、事件の被害者が遮蔽板の設置を要求することはあっても、加害者がそうすることはないという。それだけでも異例なのだ。

 

〇誘導尋問に終始。Aさんの主張をすべて否定
 最初に経歴を確認する。被告はIT業界を経て、2013年にエステサロンをオープン。業界での国際的な資格も取得し、美容専門の大学院でも学んだ専門家であることをアピールした。
 本題に入る。代理人弁護士は、原告が主張する被害事実、被告の行為について述べ、「はい」「いいえ」で答えさせた。「あなたは原告に対して●●しましたか?」というふうに。当然、被告はAさんの主張をすべて否定した。
 これについては長谷川弁護士が「誘導尋問です!」と異議を出した。しかし、改めることはなくずっと続いた。ちなみに長谷川弁護士によれば、誘導尋問による証言は証拠価値は低いという。
 マスクをしているせいか、ぼそぼそした声で、ところどころ聞き取れないところがあった。
 ほとんどが「はい」か「いいえ」という答えであったが、いくつかは自分の言葉で反論した。「質の低い記事などとは言っていない。記事が予約につながらない、と言ったことがある」、1万円を渡した理由について「お金がないと何度も言っていたので、かわいそうに思い1万円渡した」など。
 最後に原告に対して言いたいことはないか質問されると「特にないです」と一言。陳述書の内容に間違いはないことを確認して、主尋問は終了した。ちなみに、被告の主張を裏付ける客観的な証拠は提出されていない。


 原告の主張をことごとく否定する割には、原告に対しても裁判所に対しても何も言わなかった。また、提訴による影響についても代理人は質問しなかった。
 では、Aさんの反対尋問での「被告の実名を出したのはあなたの提案か?」という質問に何の意味があったのか。その質問からすれば、「訴えられたうえ、記者会見で実名を出されたから、業務に支障をきたし、社会的地位も低下した」という抗議に聞こえたのだが、それなら主尋問で堂々と訴えればいいのに。

松本浩美(出版ネッツ

 

証人尋問傍聴記(第1回)被告から「ビジネスパートナーになってほしい」と言われ - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

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証人尋問傍聴記(第3回)1日8〜12時間ほぼ毎日記事を書く〜口座開設を指示され交通費1万円を渡される - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第4回)思い出したくないことを思い出している〜被害者が減ることを願って - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第5回)反対尋問「セクハラを受けたときの大声をここで再現してください」 - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第6回)補充尋問〜被害者を責めるような質問も - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第6回)補充尋問〜被害者を責めるような質問も

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

●補充尋問〜被害者を責めるような質問も
 尋問も終盤、裁判官による補充尋問を残すだけとなった。最初に、左陪席(織田みのり裁判官)が事実について細かく尋ねる。すでに答えている内容について、さらに詳しい説明が求められるのだ。セクハラを受けた場所、客がいたか、ドアやカーテンは閉まっていたかなどなど、Aさんは記憶にある限り答えた。しかし、嫌な記憶を呼び起こして言葉にするのは相当に苦痛を伴う作業だ。再び沈黙し、涙声で証言する場面も見られた。
 右陪席(熊谷浩明裁判官)からは、被告の仕事を辞めた後、生活に困窮していたのに親に相談できなかった、言えなかったのはなぜかとの質問がなされた。

Aさん「親からは、フリーランスになることを反対されていました。こんなことになったと話すと、責められるのではないかと思い、話せませんでした」。
左陪席「でも、あなたは悪くないのですよね? そんなことは言わないのではないですか?」
Aさん「当時は、そう(責められると)思っていました」。

 聞いていて、怒りを覚えた。「親に話せないのは、あなたにやましいところがあるからだ」、「女性なのだから、生活が苦しければ家族に頼ればいい」、「フリーランスなんてリスクが高いのだから、最初から目指したあなたが悪い」。そのように言っているように感じたからだ。被害者を責めてどうするつもりなのだ。それに、Aさんが男性だったら、熊谷裁判官はこのような質問をしたのだろうか? 

 最後に平城恭子裁判長は、被告の仕事を受けるまでの職歴、得ていた収入額について質問した。業務委託の報酬15万円がAさんにとってどのくらいの意味を持つのか、具体的な数字と比較して確認しようとしたのだろう。

 

〇やめてから「思い出さないようにしてきた」
 補充尋問を聞いて、裁判官に業務委託の内容が理解されていないと感じた長谷川弁護士は、再び、契約締結前から何度も話が出ていたこと、具体的な数字までLINEで送られてきたことなどを再度丁寧に確認する。
 さらに、Aさんの「記憶があいまい」となっている部分について、なぜそのような状態になったのか、仕事を辞めて以後の精神状態について尋ねた。
 「被告から、かばん持ちになるかやめるか選べといわれ、自分のされたことがわかりました。それからは1か月間、(されたことを)思い出していました。しかし、1か月過ぎたら、思い出さなくなりました。忘れたいと思っていたし、思い出さないようにしていました」。
 ネッツに相談して説明したときは、「きちんと話せる精神状態かわからなかったので、(被害の詳細を)忘れないように紙に書いておいて、それをもとに相談しました」。

 

 15時45分、予定時刻を1時間以上オーバーして尋問は終了した。緊張とともにAさんを見守っていた傍聴席からも、ホッとした空気が流れた。

松本浩美(出版ネッツ

 

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証人尋問傍聴記(第5回)反対尋問「セクハラを受けたときの大声をここで再現してください」

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

●反対尋問〜「セクハラを受けたときの大声をここで再現してください」

 被告代理人弁護士(男性)による反対尋問では、Aさんが提出した陳述書、証拠(メール、LINE)、証言との食い違いについて質問がなされた。細かな相違を尋ねられて、戸惑うAさん。証言の信ぴょう性を揺るがせるのが狙いなのだろう。
 被告代理人が尋ねる。「体験記事の報酬がうやむやにされてしまったと言いますが、被告から『施術の代わりに報酬はなしで』というメッセージを受けた記憶はありませんか?」。メッセージはAさんが証拠として提出したものだ。覚えていないのはおかしい、というわけだ。Aさんは「嫌な記憶であいまいですが、こういう話があったことを覚えています」と答えた。
 続けて、被告代理人は「施術は本来有料ではなかったのか」と質問。「お金を払うのなら、受けませんでした」とAさん。


 さらに続く。「セクハラを受けたとき大声を上げたそうですが、今ここで再現できますか?」。これは前振りだ。本題は「この日はサロンに客がいたのだから、大声を聞いて誰かやってきたのではないですか?」。Aさんは「いいえ」と否定した。
 月19万円の収入があったのに、月15万円の報酬しか出さない被告は大事なクライアントなのか? という質問もあった。Aさんは「被告は言葉巧みに、信頼関係を築いてきました。性的に不快なことをしたり、被告に悪いところはあっても、良心はあると思っていました」と答えた。


 その他、Aさんが被告に迎合するかのように読めるメッセージをなぜ送ったのか、追及した。例えばAさんは、記事を酷評する被告に対して「わがままを承知で言うと、私の気持ちとしてはもう1か月見ていただきたいです」というLINEメッセージを送っている(8月31日送信)。「今となってはおかしいが、被告の機嫌を取ろうとした」、「なぜ、こんな言葉(わがままを承知で)を使ったのかわからない」とAさん。


 質問は、提訴の記者会見にまで及んだ。会見時に被告の実名を明かしたのは、Aさんの提案ではないか、というのだ。本筋とはまるで関係ない、しかも言いがかりとしか思えない質問に、青龍美和子弁護士が異議を唱えた。
 しかし、その後も被告代理人は「皆さんのために頑張る、とあるが皆さんとは誰か?」(出版ネッツ組合員へのメールの中のAさんの言葉)などと、出版ネッツにそそのかされて提訴したのではないか、と印象付けるような質問を投げかけた。これに対してAさんは泣きながら、「(私を)温かく支えてくれた人たち。その気持ちに応えたい」と感謝の言葉を述べた。


 ちなみに、この弁護士は証拠を提示したときに、Aさんの実名を読み上げてしまった。主尋問でも伏せていた名前を、相手方の代理人が明かしてしまう。Aさんに対する配慮のなさを感じた一瞬であった。

 なお、反対尋問後、長谷川弁護士が再びAさんに、月15万円の被告の仕事がAさんにとってどれほど価値があったのか確認した。それまでの収入には満たないものの、Aさんにとって初めての大きな仕事であったこと、ライターとして実績を積むチャンスと感じたことを証言した。

松本浩美(出版ネッツ

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証人尋問傍聴記(第4回)思い出したくないことを思い出している〜被害者が減ることを願って

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 11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

〇「思い出したくないことを思い出している」
 セクハラについては、具体的な行為の詳細はもちろん、サロンの間取り図を用いて、どの部屋にどのようにいたのか、ドアは開いていたのか、閉まっていたのか、他に客がいたかいなかったなども問われた。Aさんはその都度、言葉はつっかえながらもしっかりと証言した。とはいえ、答えられなくなった場面もあった。

長谷川弁護士「大丈夫ですか?」
Aさん「……(泣)」
長谷川「今、涙が出ているのはどんな気持ちからですか?」
Aさん「……(泣)…悔しいというか…思い出したくないことを思い出している感じがします」
長谷川弁護士「落ち着いてからでいいですよ」
Aさん「大丈夫です」
 そう答えると、Aさんはしばらく涙声で証言を続けた。傍聴席からもすすり泣く声が聞こえた。

 

〇「カバン持ちになるか、やめるか選べ」
 10月に入ると、Aさんの体調が悪化した。体が震え、睡眠障害が現れるようになった。頭痛、鼻血など自律神経の乱れと思われる症状にも悩まされるようになった。
 それでも、被告から指示された通り仕事をこなした。報酬について問い合わせても、被告ははぐらかすだけだった。
 ついに、無償であれば働けないと被告に告げると、被告は「カバン持ちになるか、やめるか選べ」と言い放った。
 10月21日、契約終了。Aさんは被告の仕事をやめた。

 その後、Aさんは報酬未払いについて東京都労働情報センターに相談。そこから出版ネッツへとつながった。
 心身の状態が悪化していたものの、医療機関を受診したのは、出版ネッツへの相談から3か月近く経った2020年1月半ばであった。なぜすぐに病院へ行かなかったのか。「3か月無償で働いていたのでお金がなく、外出する気力もありませんでした」と証言した。

 

〇被害者が減ることを願って
 最後にAさんは、裁判所へ次のように訴えた。
 「裁判にすることで嫌なことを思い出すので、迷いがありました。それでも裁判すると決めたのは、これからフリーランスとして働く人が、私みたいな目に遭わないでほしい、同じような被害者が少しでも減るようになればいいと思いました。私の気持ちとしては、被告に反省してほしいとかではなく、今後のフリーランスのために、公正な判決をお願いします」。
 被告に対して謝罪も反省も求めない。(その時点では)法廷にいない被告に聞かせたい言葉であった。

松本浩美(出版ネッツ

 

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 2021年11月17日、10回目の裁判期日を迎えたこの日、原告と被告の尋問が行われた。わずか7か月の間に何が起こったのか。Aさんと被告の証言をもとに、ライターの松本浩美さんが概略を描いた。

 

〇1日8〜12時間、ほぼ毎日記事を書く
 8月1日から仕事を開始。以後、被告との契約終了となる10月21日まで続けた。9月30日までは、コラム記事(2000〜5000字)をほぼ毎日執筆して、サイト上で公開。10月からは、被告からコラム記事は2日に1度に減らして美容に関するニュース記事(1000字程度)を毎日書くように指示された。サロンのリピーターを増やしたいという理由だった。
 他にもAさんは、エステの施術中のモデルを務めるほか、SNSでの運用なども行った。被告が用いている施術器具導入店の一覧表もつくった。様々な業務に費やした時間は1日8〜12時間であった。

 

〇責めた後に慰めるふりをしてセクハラ
 ちょうど試用期間が過ぎる8月末頃から、被告はAさんに「こんな記事では報酬を支払えない」「こんな質の低い仕事をするとは思わなかった」などと言って支払いを拒否した。ただし、記事のどこに問題があるのか、具体的な指摘はなかった。
 また、被告はAさんに対して「知識がない」「質問もしてこない」などとなじった。AさんはLINEで積極的に質問していたのに、そのように言われたのだ。さらに、「ほかの仕事をしているから、こんな仕事もできないんだね」などと咎めた。
 このようにして、Aさんはたびたび被告から呼ばれて、パワハラも受け続けた。1時間くらい責められ、たまりかねて泣き出したこともあった。すると、被告は慰めるような態度を示しながら、セクハラを行おうとした。
 その一方でAさんが、今後どのようにキャリアを積んでいけばいいか、被告はAさんから話を聞き出して、アドバイスめいたこともした。具体的には「ビジョン」と称して、Aさんに将来の夢、取得したい資格などをいくつか挙げさせ、優先順位をつけさせた。そして、当時被告が在籍していた美容関係の大学院に、会社の経費でAさんも入学すればいい、などと提案した。

 

〇口座開設を指示され、交通費として1万円を渡される
 被告はAさんが報酬の話を出すと、不機嫌になった。しかし、Aさんは被告に対して何も要求しなかったわけではない。9月4日にAさんが報酬の話をしたら、被告は「経理と相談する」と言った。
 なお、9月30日に被告は突然Aさんを呼び出して、銀行口座を2つつくるように指示した。そして、交通費として1万円を渡し、PASMOにチャージするように言った。しかし、10月に入っても報酬は支払われなかった。

松本浩美(出版ネッツ

 

証人尋問傍聴記(第1回)被告から「ビジネスパートナーになってほしい」と言われ - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

証人尋問傍聴記(第2回)セクハラを受ける〜専任のウェブ担当として業務委託契約へ - フリーライターAさんの裁判を支援する会

 

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